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自分らしい家づくりへのこだわり~建て主自身が住宅建築プロデューサー~

マーケット発想の住宅から個人発想の住宅へ

 家を建てようとする人がまず行くところとして最もポピュラーなのは住宅展示場であろう。いくつもの住宅メーカーのモデルハウスが建てられており、そのデザインは年を追うごとにバリエーションの幅を増している。数十年前の日本の住宅は、ほとんどが和室の続き間が基本の日本家屋でほぼ仕様が同じだったのと比べると、実に多彩である。
 しかし、ライフスタイルや価値観が多様化した現在、住宅展示場にある住宅は、ある意味ではすべて似ている、とも感じられる。たとえば「地球生活記」を見てみよう。この写真集には、小松義夫氏が、長年月にわたって世界各地を巡って撮影した、世界の様々な民族の生活の場として多様な住宅写真が収められている。それらを見ると、住宅の多様な可能性、否、実際にある世界の住宅がいかに多様であるかを思い知らされる。
 住宅メーカーの住宅モデルは、ある新築ユーザー層のマーケットを想定してつくられる。そのデザインやプランは、今どきの生活者の多数派に支持されるものでなければならない。なかには、あえてある程度少数派のマーケットを狙った住宅モデルもあるが、対象とする購入層に共通に支持される住宅商品をめざして企画する点では、同じである。
 しかし、今や都市生活者は、住宅にはもっとさまざまな可能性があることに気づき始めてしまった。かつて、ある哲学者は、「人の生き方の可能性がピアノのすべての鍵盤だとすると、今の社会の誰もが、せいぜい2つか3つの鍵盤のなかのバリエーションにしかすぎないのである。
 そこで、最近では、住宅メーカーの画一的な住宅スタイルに飽き足りない人が、建築家に設計を依頼しようとするよう傾向が強くなってきた。住宅メーカーの家はまずマスマーケットを想定して企画されるのに対して、建築家の設計による住宅は、特定の個人の要望から発想して設計していく。設計アプローチの方法を全く異にするのである。建て主が、もし自分のこだわりを反映した家をつくろうと思うなら、建築家に設計を依頼する方がいいことは、明らかである。

誰にとって個性的なのか

 ある一般生活者対象の意識調査によると、「次の住まいは、建築デザイナーの設計による住まいにしたい」と思っている人が全体の五割を超えている(OZONE情報バンク「マーケティングレポート」より)。最近では、建築家との家づくりは、多くの雑誌やテレビで取り上げられるところとなっている。たしかに、マスコミに登場する建築家が設計した家は、住宅メーカーの家に比べて、実に個性的である。
 しかし、建築家に設計してもらった家が「個性」的だというのは、いったい誰の個性なのだろうか。実は、住宅が個性的なのは、建て主の個性によるものではなく、単に建築家の個性によるものである場合が多いのである。
 たとえば、一時大人気を博した、「リフォームの匠」と呼ばれる建築家が住まいの悩みを解決するテレビ番組では、建築家が考えるプランはリフォームが完成するまで住まい手に知らされないルールになっているそうだ。これはテレビ番組として、住まい手がリフォーム後の見違えるようになった我が家に感動する劇的なラストシーンを演出するための決め事ではある。しかし、そういう経緯でつくられた、際立ってユニークで見栄えの良い家は、あくまで建築家の個性の表現であり、住まい手のこだわりから生まれた、住まい手にとっての自分らしい家とは言えないのは明らかである。
 建築家に設計を依頼して家を建てる人のなかには、実は、これに類する建築家中心の家づくりになってしまう人がとても多いのである。
 しかし、一方で、建て主自身が主体となって、建築家にプロとしての力を貸してもらいながら、自分にふさわしい家を実現することを志向する人も増えている。建築の専門知識のない建て主が、あくまで自分が中心となって自分らしい家づくりを進めることを支援する環境も整いつつある。

OZONE家づくりサポートの誕生

 自分のこだわりを生かした住宅を建てようとする建て主が、気軽に住宅に関する情報を得られる場をつくることを目的として、私たちがリビングデザインセンターOZONEを誕生させたのは、12年前だった。この施設には、世界の様々な住宅デザインに関する書籍や、国内で調達できる百万種類以上の住宅部材の情報が揃っている。更に、多くの住宅部材や家具メーカーのショールームがあり、また、常にさまざまな建築やデザインに関する展示イベントを行っている。誰でも自由に、自分のこだわる住まいに関する情報を入手することができるのである。
 しかし、家づくりの情報が手に入りやすくなっても、建築知識のない建て主が、自分のこだわりを反映した住宅をつくるのは、更に高いハードルを越えることが必要である。多くの人は、自分らしい住まいを望んでいても、それを具体的にプランにすることができない。そこで、私たちは、1995年、建て主が自分に最もふさわしい住宅プランを見出すことを実践的にサポートするために、住宅設計のための建築家公募コンペを始めた。これは、多くの建築家に建て主の要望に基づいた設計プランを提案してもらい、そのなかから、建て主自身が基本プランを選ぶ、という方法である。毎回コンペを行うごとに、百人近い建築家から設計プランの応募が寄せられた。
 しかし、やがて、公募コンペは原則としてやらないことにした。それは、建て主自身のこだわりを生かした住まいをつくるには、基本プランだけでなく、建築家の決定後の設計・施工の各過程において、建て主の要望が的確に反映されるような体制をつくることがより重要であることが解ったからである。私たちが現在行っている「OZONE家づくりサポート」では、建て主が数百名の登録建築家の中からプロフィールに基づいて選ぶ、三人の建築家による指名コンペを行い、かつ、建築家の決定後には、建て主の納得のうえで設計が進んでいくように様々な書式を定め、重要ポイントではセカンドオピニオンとしてOZONEのスタッフが立会いをする、という方法を基本としている。
 私たちは、建築プロデューサーではなく、建て主がやるべきことを代行するエージェントでもない。OZONE家づくりサポートは、建て主こそが住宅建築プロデューサーであるという考え方に立って、建て主が自分の責任において自分のこだわりの家をつくることを支援する役割を担っているのである。

自分自身のこだわりの住まいを実現した建て主たち

 OZONE家づくりサポートを利用して住宅を新築する建て主は、年間約200家族いる。その誰もが、建築家にプランづくりを任せるのではなく、主体的に自分自身のこだわりを実現するための家づくりを求めている。しかし、こだわる内容や家づくりへの姿勢は人それぞれである。OZONE家づくりサポートでは、その人その人にあわせたこだわり実現の支援をしている。
 ここでは、OZONE家づくりサポートを利用して自分のこだわりの住まいを実現した二人の建て主を紹介しよう。  まず一人目は、京都市の笠原さん。彼は、家づくりをしようと思ったとき、まだ二十代で独身だった。OZONEに来た2年前に購入したという建築計画地は、間口が4メートルで奥行きが37メートルという、まさにうなぎの寝床状の変形敷地だった。心地よく暮らす家をつくるためには、都心でなるべく広い土地がいい、という彼のイメージが、限られた予算のなかでこの土地を選ばせたのである。総額1800万円という家づくり予算は、将来の家庭生活を想定して希望する40坪という建築ボリュームからみると、一般的な建築家の設計による住宅の坪単価を大幅に下回っていた。しかも、採光がよく風が通る家にしたい、自然のなかにいるようなインテリアにしたい、「あいつの家、いいよなぁ」と言われるような自分も帰りたくなる家にしたい、など絶対に譲れない明確なイメージがあった。しかし、笠原さんのこの妥協しない姿勢が、建築家の超絶的な発想を呼び込んだ。関西圏の建築家数十人に呼びかけておこなった公募コンペで選んだ建築家とともに笠原さんがつくりあげた住宅は、それまで見たことも無い独特なスタイルの家になった。
 片流れの屋根の細長い2階建てだが、総ロフト感覚の平屋スタイル。南側の斜め屋根にあるいくつもの天窓が、家全体を光で満ちた明るい空間にしており、とてもすぐ隣接して大きな建物があるとは感じさせない。この斜めの屋根は、外壁と同一素材で一体化させることによって、建築コストの抑制にも寄与した。また、内装における自然素材へのこだわりも、木目のきれいな針葉樹合板を使って仕上げを省略することにより、かえってコストダウンにつながった。
 更に、当面なくてもいものは極力省く、という姿勢も貫いた。将来もし家族が4人以上になった場合に備えてのスペースは、リビングの吹き抜け部分に二階の床を広げることとして、今は床を張らずに開放的な吹き抜け空間にして、壁にコンセントだけを設置している。また、階段下の収納には扉が無い。完成後に、収納の眼隠しとして、建築中に結婚した奥さんがカーテンを手づくりした。笠原さん自身もおおいにDIYスピリットを発揮して、大工さんにつくってもらったダイニングテーブルにあわせて、自分で椅子をつくった。
 笠原さんの明確な自分スタイルへのこだわりが、建築家をはじめ周りの人の理解と協力を呼び込み、コストを抑える信念が、かえって心地よくさせる方法を生み出したのである。  もう一人紹介するのは、潮来市の鴇田さん。彼は東京で二人暮らしをしていたが、故郷の土地に家を建てることにした。OZONEに来たときには、すでに、自分自身で五年近くかけて練りあげた家の設計プランを持っていた。そのテーマは「植物園に住みたい」。その家は、南側半分をすべて吹き抜けにして温室のような植物のあふれる空間にして、北側半分の2階がリビング、1階に寝室と水回りと個室を配置するという、きわめてシンプルなプラン。自分が考えたプランそのままのイメージの家を建てたい、ということだった。私は、いかなる建築家でも、この鴇田さんの完成されたプランを超える発想はできないと思った。しかし、建築の専門知識のない自分の限界を明確にわかっている鴇田さんは、設計者として建築家に入ってもらうことを希望した。
 そこで、「植物園に住みたい」というテーマに共感する建築家を募り、名乗り出てくれた数十人の建築家の中から何人かと面談したうえで、設計を依頼する建築家を選ぶことにした。ある建築家は、自分のプランニング力を誇示したくて、鴇田さんのプランをブラッシュアップしたとする設計プランを提案してきたが、それは鴇田さんの思いを十分に理解したうえのものではなかった。その建築家を即座に候補から外したことは、言うまでもない。
 選ばれた建築家は、あくまで鴇田さんのプランそのままをベースにしたうえで、建築家としての提案をも随所に織り込んで設計を進めた。今春、住宅の建物は完成したが、鴇田さんは、数年後に植物のあふれる空間で暮らせるようになることに向けて、自分らしい住まいづくりをまだ始めたばかりである。
 笠原さんと鴇田さんは、二人とも、30代で、決して潤沢とは言えない予算での家づくり。それでも、明らかに本人のこだわりを反映した、他に二つとない家を実現した。そして、自分の家は完成したのではなく、これからも手を加えてどんどん良くしていく発展途上であると認識している点でも共通している。
 これからは、彼らのように、建築の素人でありながら、住宅を自らプロデュースして自分のこだわりの住まいを手に入れる人がどんどん増えていくだろう。
 家を建てるすべての人、一人ひとり、こだわりはすべて異なる。今や、誰もが、家を建てるにあたってその家に自分のこだわりを込めて、自分にとっての「世界でいちばん自分らしい家」を手にする事ができる時代になったのである。

人それぞれのこだわりの家と、街並みの美しさ

 日本の都市の街並みは、ヨーロッパの統一感のある街並みと比べて、よく、乱雑であると嘆かれている。たしかに、ここ数十年、日本の住宅は、多様な素材が工業生産されることによって、伝統的な日本家屋とは全く異なるデザインの家が次々に建てられるようになったために、街並みがばらばらになってしまった。とすれば、一人ひとりが今以上に自分のこだわりの家を建てるようになると、ますます乱雑な街になってしまうのではないかと懸念する向きがあるのも当然だろう。
 しかし、果たして、整然と統一されている街の方が、統一されていない街よりも美しいのだろうか。
 植林により人工的につくられた森は同じ樹種と樹齢の木だけが整然と並んでいるが、一方、自然にできる森は、さまざまな樹種と樹齢の木がばらばらに生えている。どちらの方が好きかは人それぞれだが、私は多様な植物が茂る自然にできた森の方が、はるかに豊かで心地よいと感じる。
 しかし、私は、家を建てる人が、その街の周辺環境を意識することの大切さを否定するものではない。自然林も単にばらばらなのではなく、そのなかに自然に形成されたゆるやかな統一感があるからこそ、そこに居て心地よいのである。
 近年、OZONE家づくりサポートには、未だ土地を購入していない人が、建築家との家づくりをしたいと相談に来るケースが急激に増えている。そういう人たちは、自分が建てたい家をイメージしながら土地を探す。だから、おのずから自分が建てたい家のイメージになった街並みの土地を選ぶことになる。
 日本では今後、人口が急激に減少し始める。仮に今の出生率のままだと、百年後には、今の人口の六割になる。人口密度が低ければ、どんどん土地が流動化していくことになるであろう。そうなると、誰もが、自分の個性にあった家を建てるのにふさわしい場所を探すことにより、好みの近い人たちが同じエリアに集まり、おのずからゆるやかな統一感のある街になっていくことだろう。
 特定地域のデザイン規制をつくったり、一人のデザイナーが街全体を統一的にデザインしたりする動きもあるが、住む人それぞれが主体となって、家それぞれの個性が主張しあう街というのも楽しみではないか。私は、一人のデザイナーがプランした街並みより、はるかに魅力があると思う。
 いつの日か、日本の都市に、古典的な統一感のある街並みとは全く異なる、住む人それぞれのこだわりが強く主張しあいながらも、美しく調和した街並みが形成されることを期待している。

出典

住宅
  • 『住宅』vol.55
  • 発行日本住宅協会
  • 発行年2006年
  • 定価 円