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建て主がプロデューサーとなる家づくりシステムができるまで

建築家コンペ10年の歩み

住宅建築のプロ会員による公募コンペで建築家を決定

川島 OZONEで井本さんのご自宅の新築にあたっての設計コンペをやらせていただいてから、もう10年経ちましたね。
井本 家を建てようとしたとき、はじめはハウスメーカーをいくつか回ったのですが、どうしても画一的なイメージに納得がいきませんでした。建築家に頼みたい気持ちはあったのですが、なんとなく敷居が高い感じがして、躊躇していました。そのとき、たまたまリビングデザインセンターOZONEに立ち寄った時に、川島さんにお会いしました。
川島 井本さんとお会いしたのは、まさに、建築家による住宅設計コンペをやり始めたころでした。OZONE情報バンクでは、1994年の開設当初から、設計者でも工事会社でもないあくまで中立的な立場で、家づくりコンサルティングを行ってきています。
この中立性を堅守しながら、建て主が自分に最もふさわしい建築家を具体的に選ぶことを支援する方法として、住宅の設計公募コンペを考えたわけです。
当時は今のようにネットは普及していませんでしたが、OZONEでは約3000名の住宅建築のプロをメンバーとする会員制度を運営していたので、プランを公募することができました。
井本 まず、私たちの家づくりの要望を整理したうえでプロのメンバーに方々に告知していただき、そのあと行われた説明会には30人もの建築家が参加してくれて、ビックリしました。最終的には、なんと83点もの応募があり、選ぶのがとても大変でした。
川島 この応募数には、私も驚きました。これは、未だに破られていない記録です。
井本 そのなかからOZONEのスタッフの方にもアドバイスをいただきながら、まず、候補として、4人の建築家を選びました。外観図と平面図の表現で、匂いというか、感覚的なイメージはなんとなく伝わってきましたね。迷ったのは、オーソドックスなプランと、独自性の強いプラントで、どちらにするか、家族の中で意見が分かれたことでした。実は、私は新しい提案のある少し飛んだ案に惹かれていたのですが、母は日当たりのいいオーソドックスなプランがいいと言いまして、その中間のプランをうまく選べたと思います。
川島 最終的には選ばれた杉浦利彦さんのプランは、生活のしやすさを良く考えられていた点が特徴的でしたね。デザイン的にはおとなし目でしたが、今日、久々にお住まいを拝見させていただくと、今見ても充分に独特の存在感のあるデザインだと思いました。
井本 最終的に建築家を決めるにあたっては、杉浦さんが、母の話にも良く耳を傾けてくれて、コミュニケーションがうまくとれそうだと思ったことも大きかったです。
川島 建築家選びにおいては、建て主の思いをいかにプランに表現できる設計者であるかが重要ですが、それと同時に、性格的な相性も大切です。井本さんご家族にとって、杉浦さんは、その両方を併せ持った建築家だったと言えるのではないでしょうか。

住宅の完成後にやってくる家族の暮し方の変化

川島 杉浦さんのプランは、一階にあるお母様のエリアがひときわ快適に暮らせるように設計されていましたね。
井本 家づくりをして、妻や子供達もそうですが、母に喜んでもらえたのが、とてもうれしかったですね。母が元気なときには、子供たちがよく母の部屋に出入りしていました。母も、この家を建てて良かったと心から思ってくれていました。
川島 そのお母様は、数年前にお亡くなりになりましたよね。
井本 家ができて3年後に、たまたま母は病気になり、その後入院したり退院したりの繰り返しでした。母の居住していた1階フロアは、寝室からサニタリーに直接つながっており、回遊性のあるプランで、バリアフリーを考慮したプランだったので、看病するのにもとても適していたと思います。
川島 お母様の意見を尊重して建築家とプランを決めて良かったですね。これからはお住まいをどうしていくおつもりですか。
井本 さしあたっては、10年経って多少の不具合が出てきたので、リフォームをしようとおもっています。母のスペースを今後どう使うか、使うようになるのかは考えていません。いずれ、子供がもっと大きくなったときに、また新しいこの家のあり方が決まってくるおうな気がします。

すべては施主のために。家づくりサポートの歩み

井本 OZONEの家づくりサポートも10年の間に、ずいぶんメジャーになりました。
川島 おかげさまで、今では年間約200家族の方々にご利用いただいています。また、家づくり支援のサービス内容も、10年の間に大きく変化しました。家づくりサポートの利用者の満足度は90%を超えているのですが、なかには何らかの問題が発生することもあり、それらの反省のうえに、手法の改善を重ねてきました。とくに大きく異なる点が二つあります。ひとつは、公募コンペをやめて、原則として、3人の建築家による設計コンペで建築家を決めるようにしたことです。以前は、一般住宅のための設計コンペなど他に存在しなかったのですごく新鮮味もあり、実績のある建築家の方々がずいぶん応募してくれました。しかし、情報メディアが発達した現在では、公募コンペをしても、応募するのはほとんどキャリアの浅い仕事の欲しい建築家だけになってしまいます。また、建築家の選定には、プランの良し悪しだけでなく、設計者としてもキャリアやその後いっしょに設計を進めていくにあたっての相性もすごく大切です。だから、建築家の選定にあたってはプラン、実績、人柄などを総合的に判断する方が、より適切な依頼先を選べます。そのため手法として、あらかじめ資格審査をした数多くの建築家の中から実績に基づいて3人の候補者を選び、面談によって人柄を確認し、最後に、設計プランを提案してもらったうえで建築家を決定する方法がベストである、という結論に達しました。
もうひとつは、建築家の決定をしたあとも、住宅の完成まで総合的にバックアップするシステムにしたことです。建て主と建築家だけで設計を進めていく形だと、どうしても専門家である建築家のペースになりがちです。また、建築家が何らかのミスをしたり説明不足だったりしたときには、修復しがたい状況になりかねません。だから、今では、「設計・監理契約書」をはじめ、「基本設計完了確認書」「工事請負契約書」「現場監理報告書」など、さまざまな書式のフォームを定めています。また、実施設計完了段階や建物引渡し時など、家づくりの重要なポイントでは、OZONEのスタッフが必ず立ち会うようにしています。
井本さんはをはじめとして、これまで関わらせていただいた多くの建て主の方々のおかげで、現在の家づくりサポートの形ができあがってきました。
井本 ずいぶんサービス内容が高度になってきたんですね。OZONEのかかわりが多くなれば、建築家とうまくいかなくなったときも、安心感がありますね。
今、あまり予算がなくても、オリジナリティの高いものを求める人が増えてきているのではないでしょうか。ふつうの人が、自分にあった建築家を探せるシステムはとても貴重だと思います。
川島 有難うございます。建築家は建て主にとって信頼できるパートナーですが、建築家のペースになりすぎないようにすることが大切です。また、ときには、建築家以外の第3の専門家の意見を聞いてみることも必要です。それをプログラムとして確立してきたわけです。 そういえば、井本さんも一度、設計契約後に、建築家とはセンスが合わない面があるので、商品選びのアドバイザーを紹介してくれないか、と相談に来られたことがありましたね。
井本 何人かのインテリアコーディネーターとの面接をセッティングしていただき、「これは」という人を選ぶことができました。インテリアコーディネーターの方には、家具やファブリックの選定だけではなく、部屋の照明についても的確なアドバイスをいただいて、いい住まい環境をつくるのにすごくお世話になったと思います。
川島 井本さんのように、明確に自分なりの意見を持って、建築家とうまくつきあっていくことが、家づくり成功の重要ポイントですね。家づくりの総合プロデューサーは、あくまで建て主です。OZONEでは今、設計契約後に特別なサポートを必要とする方のために「総合サポートコース」というコースも設けています。

建築家による店舗の設計コンペ

川島 井本さんには、ご自宅を新築された2年後に、御自身が経営されている不動産会社の店舗のリフォームで、再度、建築家による設計コンペを活用していただきました。
井本 ちょうど会社名も変えて、会社のイメージも刷新しようと思ったときに、リフォーム予算は数百万円しかありませんでしたけど、今度は自分の店にも最もふさわしい建築家を選ぼうと考えて、相談に伺いました。この時は、今のOZONE家づくりサポートに近い方式で、3人の建築家の設計コンペを行っていただきましたね。
川島 井本さんが設計者として選んだ松本正富さんは、建築リフォームのプランだけでなく、店口に並ぶ不動産情報の出し方についても魅力的なアイディアを出してくれましたね。井本さんのお店ができあがったときは、不動産情報が整然としてきれいに並べられており、実にモダンな不動産屋が出現したと思いました。
井本 当時としては、かなり画期的でしたね。

不動産仲介とこれからのOZONE家づくりサポート

川島 井本さんは、不動産会社の経営者として土地オーナーの方の賃貸住宅建築アドバイスをされたとき、ご自宅の設計者だった杉浦さんに設計を依頼されたそうですね。
井本 杉浦さんとは、それを含めて、自宅の完成後も友好関係を続けています。
川島 とてもいい建て主と建築家の出会いでしたね。
今、OZONEに来る相談者にも、土地活用として賃貸住宅を計画する方が増えており、「賃貸マンション総合サポートコース」というコースを設けています。市場調査や収支計画から始めて、建築家や工事会社の選定のみならず、金融機関や賃借人募集の不動産会社の選定までをサポートしています。
井本 賃貸住宅の経営には特別なノウハウが必要ですからね。賃借人だって、本心は、安いだけではなく快適な住まいに住みたい思っています。もっと個性的で快適な賃貸住宅がふえてほしいですね。
川島 少しでも賃借人の住環境の向上に貢献できればと思っています。
一方で、土地を所有していない方が、建築家に設計を依頼して家を建てたいと相談に乗るケースも、とても多くなってきました。そこで、「土地探しサポート」というコースを設けて、土地探しのポイントのコンサルティングもしています。
井本 東京で建築条件のない優良な土地を探すのは、かなり大変な状況です。良心的な不動産業者がふえていくことが必要だと思います。
川島 OZONEでは、不動産会社とは異なる立場で土地探しを支援していきたいと思っています。すべての都市生活者が自分らしく幸せな住まいを手にできる環境づくりをめざし、住まいづくりサポートの範囲を少しずつ拡げていきたいと思っています。

出典

住宅
  • 『世界でいちばん自分らしい家5』
  • 発行 
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  • 定価 円